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今のところ、書きためていたのはこれで最後です。

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一謡の郷が見えてくると、きらの足が自然に止まった。

横を歩いていた水季もつられて立ち止まる。

「きらさん。どうしました?」

「ちょっと、怖くて……」

見上げると、きらにつられるように、水季もまた眉を寄せた。

袂をきゅっと握ったきらの手に、水季が自分の手をそっと重ねてくる。

「不安ですか?」

顔を曇らせるきらを覗き込む。きらは水季の手を握り返した。

「不安……そうですね。たぶんそうなんだと思います」

今まで何度か郷には行ったことがある。

水季と郷で会ったこともある。

けれどもその時は、こんな感情を抱いたことはない。

こんなにも不安なのは、きっと水季が郷に帰る日だからなのだろう。

兄弟のわだかまりは解けた。主従の再会も果たした。

あの日まで共に戦った一謡たちは、皆水季の帰還を喜ぶだろう。

けれども、その他の一謡は?

それを考えると、怖くなる。



かつて水季が追放されたという事件のことを、きらは詳しく知らない。

概要はわかっているつもりでも、そこでどんな心情が動いたのかとか、九艘一謡それぞれにどんな深い傷をもたらしたのかとか、そういったことがわからない。

互いに歩み寄り、着々と和解に向かって動いているということは知っている。

けれど、今なお、どれだけの一謡が九艘を嫌っているのか。そして、殲滅派と呼ばれていた一派が未だに存在するのか。

何よりきらが怖れているのは、そういった人々に水季が利用されることだった。

水季はもう九艘殲滅の命を下すことはない。それだけは確信が持てる。

でも、水季の名前が、水季という存在がもたらすものは大きいだろう。

そして、違った見方もある。

九艘と和解したいと思っている一謡のほうだ。実際、そのような考えの一謡がどれだけいるかわからないけれど。

とにかくそんな人達がいたとするならば、水季は彼らにとって憎しみの対象となってしまうだろう。

殲滅派にせよ、和平派にせよ、水季が傷つくことが、きらには怖かった。

今こうして傍らに在る彼が、悲しむのを見たくなかった。

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