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雑多ジャンル更新第1弾です。
ゲゲゲの鬼太郎より、キタネコ。
傾向はほのぼの。……ですが、猫娘はほとんど出てこないです。
キタネコというよりは、鬼太郎+子猫?
鬼太郎が偽者でもOKな方は続きからどうぞ。






「ね……」
呼び掛けようとした声を飲み込み、僕はそっと彼女に歩み寄った。
木の陰に、まるで隠れるかのように横になった猫娘は、くうくうと寝息をたてている。
その頬には幾筋かの涙の跡が見て取れた。泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。
胸に鈍い痛みが走った。猫娘を泣かせたのは他でもない自分自身だ。それが故意でないにしろ、事実に変わりはない。
泣かせるつもりなんてなかったのに。
ただいつも通りにしていただけなのに。
何がいけなかったのだろう。

……いや、原因はわかっているのだが。

「にゃ」
不意に、すぐ側から小さな鳴き声がした。
猫娘が目を覚ましたかと、慌てて伸ばした手を引っ込める。
けれど、目の前の少女は眠ったままだった。
ではどこから声がするのかと見渡せば、ちくりと刺さる鋭い視線。
眠る猫娘の腕の中、生まれてまだ幾月も経っていないだろう子猫が、毛を逆立ててこちらを見ている。
剥き出しになった敵意。この娘を泣かせたのはお前なんだろうと、声なき声が告げている。

「そうだよ。泣かせたのは僕だ。猫娘から聞いたのかい?」
「なーお」
そうだと言わんばかりの鳴き声を一つ上げ、子猫がひらりと飛び出してきた。
これ以上は近付かせないと、尻尾を立てて威嚇する。
吊り上がった眼と剥き出しになった牙に、つい先程の猫娘の姿が重なって見えた。



きっかけは、本当に些細なことだった。
僕が人間の女の子を見ていた。それだけ。
けれど、猫娘を激昂させるのには、それで充分だったらしい。
彼女が言うには『鼻の下が伸びていた』んだそうだ。
「……可愛いわね」
僕の視線の先を見て、言葉に軽く皮肉を込める。
その見え見えの嫉妬があまりにも可愛くて。
ちょっと困らせてみたかったのか、もっとやきもちを妬いてもらいたかったのか、今となってはよくわからないのだけれども。

「そうだね」

咄嗟に出た言葉はそれだった。
実際、その女の子がどんな顔だったのか、今となっては思い出せない。だって、僕が見ていたのはその子の顔ではないのだから。

だから結局、すべては猫娘の思い込みに過ぎない。
けれども、僕は全く悪くないのかと言われれば、言葉に詰まる。
彼女が怒って猫の本性を現しても、慌てて取り繕ったり、言い訳したり、そういった弁明を一切行わなかったからだ。
ただ、いつものポーカーフェイスを張り付けて。
何を怒っているのかわからない、そんな顔をしていただけ。
「鬼太郎のバカー」
あくまで飄々とした僕に、爪ではなく言葉を叩きつけて、猫娘は身を翻した。
その顔は怒ったままだったから、まさか泣くなんて思っていなかった。



「お前も猫娘が好きなんだね」
「にゃ?」
しゃがみ込んで子猫に目線を合わせる。
未だ威嚇の姿勢は解かれていないけれど、子猫は不思議そうな顔をした。

ああ、いま僕はどんな顔をしているんだろうか。

鈍感な振りをして、猫娘の好意に気付いていない風を装う必要は、今はない。
目の前の愛しい娘は緩やかな眠りの中にあり、対峙しているのは子猫のみ。
穏やかな顔なんだろうか。それとも切なげな顔なんだろうか。
「僕も……」
ぽつりと呟いた言葉に、子猫が「にゃあ」と声を上げる。

「好きだよ」

猫娘には決して言わない本心。
それがするりと言葉になって滑り出る。
子猫はただ「みー」とだけ鳴いて、擦り寄ってきた。
顎に手を伸ばす。ゴロゴロと鳴る喉を撫でてやると、子猫は気持ち良さげに目を細めた。
「こんな風に触れられたらいいのにね」
彼女の髪に、頬に、そして唇に。
触れてしまったら、きっと何かが変わってしまうから、今の自分には手を繋ぐことくらいしかできない。
好意を寄せてくれていることは、とっくの昔に気付いていたが、それはまだ恋ではないから。
もう少し時間をかけて、この気持ちを温めていきたい。
いつか、少女が恋を知るまで。

ひとしきり撫でてやると、子猫はそっと道を開けた。
「にゃー」
行ってもいいよ。
尻尾がパタパタと揺れている。
未だ丸くなって眠ったままの猫娘にちゃんちゃんこを掛けて、僕は傍らに腰を下ろした。
子猫は僕の横に寝そべる。
「お前、猫娘にさっきのこと話すなよ」
まどろみかけた子猫に念を押すと、わかっているのかいないのか「みー」と返事が返ってくる。
そんなことをしなくても、子猫が猫娘に僕の本心を伝えることはないのだろうけど。
(だって、僕は君のライバルなんだろうから)

眠る二匹の子猫に囲まれて、僕も静かに目を閉じた。
見ていたのは女の子じゃなくて、その服だったんだよ、猫娘。
そう告げたら、君は理由を聞くんだろうね。
『だって、猫娘に似合いそうじゃないか』
いや、駄目だ。それでは、猫娘が着ている姿を想像していたのがバレてしまうかもしれない。
なんとか上手いごまかしかたはないものか。
試行錯誤していると、小さく「にゃあ」と声がした。
今度こそ、僕の猫のお目覚めのようだ。
見下ろすと、まだ夢うつつの猫娘と目が合った。

「きたろー?」

あくびをしている彼女ににこりと笑いかけると、僕は口を開いた。

「おはよう。猫娘」

まずは謝ろう。
本気で人間の女の子を可愛いと思っていたわけではないと、そこだけは正直に言っておかなきゃ。

いつだって、僕が可愛いと思うのは君だけなのだから。
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